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平成22年

「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する中間試案」に対する意見書

大司発第409号
平成22年9月9日

法務省民事局参事官室 御 中

大阪市中央区和泉町1丁目1番6号
大阪司法書士会
会長 山内 鉄夫

「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する中間試案」に対する意見書

  時下、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

 さて、平成22年8月6日に公示された「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する中間試案」に対して、大阪司法書士会(以下「当会」といいます。)は、下記のとおり意見をとりまとめましたので、提出いたします。

第1 親権制限に係る制度の見直し

1 親権の制限の全体的な制度の枠組み

(1)親権の全部についての喪失制度及び一時的制限制度

親権の全部の一時的制限制度の導入に賛成する。

(2)親権の一部制限制度

親権の一部制限制度としては、諸案のうち甲1案に賛成する。
 甲2案をとらないのは、補足説明第1・1(2)ウ(イ)b(a)②にあるとおり、管理権の制限を受けるような親権者が一定期間の経過により適切に財産を管理することができるようになることを期待することは困難であるからである。
 乙案は、補足説明第1・1(2)ウ(ウ)a(b)②にあるとおり、監護権は、実質的に親権の大部分を占めるものであり、監護権に限定して制限すべき場合が想定しがたいので賛成できない。また、乙案によると、監護権を放棄し、管理権のみ留保しようとする親が現れる弊害も想定できる。
 丙案は、たしかにさまざまな事例に即した対応が可能なように受け取れるが、補足説明第1・1(2)ウ(エ)bに記されているような不都合があり、現実の場面では非常に使いづらい制度になるおそれがある。
 また、事案ごとに制限されている内容が異なることは、制度として複雑に過ぎ、制限内容の公示が一覧性に欠け、未成年者との取引の安全を害するおそれがある。

2 親権の制限の具体的な制度設計

(1)親権の制限の原因

ア 親権の喪失の原因は、諸案のうち、B案に賛成する。

 A案は、補足説明第1・2(1)ア(イ)b(C)にあるように、親権者に対する批難可能性や帰責性に関する要素の有無にかかわらず、親権の行使が著しく困難な場合が想定できる以上、原因を限定してしまうことにはちゅうちょを覚える。
 C案は、親権の喪失を申し立てようとする者にとって、表現が抽象的であり、わかりづらいものとなっている。補足説明第1・2(1)ア(イ)b(d)にある理由は、親権の喪失が検討されるような事態においては、B案にある程度の表現であれば大きな障害になるとは考えにくい。

イ 親権の一時的制限の原因は、親権の喪失の原因をB案とすることを前提として
  中間試案の表現に賛成する。

エ 管理権の喪失の原因は、諸案のうちB案に賛成する。

親権の喪失と管理権の喪失をどのように使い分けるかが問題であるが、管理権の喪失をA案のように限定的場面だけに限らず、子の利益を害する態様、程度に応じて管理権の喪失で対応できると考えられる。

(2)親権の一時的制限の期間

親権の一時的制限の期間は、諸案のうち、B案に賛成する。補足説明第1・2(2)ア中のB案を推す意見と同旨。さらに、一定の期間が法定されていることは、制度の安定にも資するものと考えられる。なお、具体的期間については2年を原則とし、特段の事情が認められれば、それより短縮又は伸長した期間も認めることができる制度とするのが相当と考える。

(3)親権の制限の審判の取消し

親権の制限の審判の取消しについては、当然のことと思料するので、とくに意見はない。

(4)親権の制限の審判またはその取消しの申立人

① 親権の制限の審判申立人に子を加えることには反対する。

補足説明第1・2(4)ア後段にあるとおり、子を申立人に加えることで、子に酷な判断を求めることになる場合や、子が申し立てをしたことによって、その後の親子の再統合が事実上不可能となる場合が想定される。また、子が申立権者でありながら申し立てをしない(させない)ことを自己に有利な事情として用いようとする親が現れることも想定される。逆に、子がこの制度を乱用的に用いる場合も考えられる。さらに、仮に子に申立権を認めたとしても、現実に申し立てができる子は意思能力があることが前提となり、巷間、虐待事例が多く報告されている幼少期の子は事実上対象外となるのであり、実効性が薄い。

② 親権の制限の審判の取り消し申立人は、提案に賛成する。

また、児童相談所長を申立権者に加えることは、積極に考える。

(5)親権の一時的制限の場合の再度の親権の制限

親権の一時的制限の場合の再度の親権の制限については、1回に限り認めるべきであると考える。補足説明第1・2(5)イにあるとおり、期間が満了するごとに一時的制限をするとすることは、子の安定的な監護に資さない。したがって、再度の親権の一時的制限は一回に限るものとし、その期間中に親権者としての適格性が改善されない場合は、親権の喪失原因とするべきであると考える。また、この場合の申立権者に未成年後見人を加えることは、積極に考える。

3 同意に代わる許可の制度

同意に代わる許可の制度は、自立した子にとって有用な場面があることは理解できるが、補足説明第1・3(2)ウにあるとおり、実効性の観点から克服すべき課題が多く、現段階では消極に考える。


第2 未成年後見制度の見直し

1 法人による未成年後見

法人を未成年後見人に選任することができるとすることには賛成する。
法人であることをもって未成年後見として不適当とする合理的理由はなく、むしろ、法人を活用することで、未成年者の福祉に資することも考えられるからである。

2 未成年後見人の人数

複数の未成年後見人を選任することができる者とすることには賛成する。
成年後見においては、得意とする分野が異なる後見人を複数選任する事例があるし、実績も上がっている。未成年後見でも、必要に応じて財産管理面と養育監護面で別々の後見人を選任し共同関係を保ちながら未成年後見を行う実益がある。法人未成年後見人を一人に限る現行制度は、もはやその制度趣旨の説得力が希薄になっている。


第3 その他

1 子の利益の観点の明確化

民法の親権に関する規定において、子の利益の観点を明確にする方策については、親権が義務と表裏であり、親権行使の根本原則を示すように民法第820条第2項として加えることを望む。

2 懲戒

民法第822条中、懲戒場に関する部分を削除することには賛成するが、全部を削除することは慎重な検討が必要と考える。親権者の子に対する懲戒は、監護教育義務を果たす一手段であるとすれば、同条の規定は不必要と考えられるが、補足説明第3・2で指摘されているとおり、それによる社会的影響を考慮して慎重に考えるべきである。

以 上

小規模金融特区構想に反対する会長声明

2010年(平成22年)7月7日

小規模金融特区構想に反対する会長声明

大阪司法書士会
会長 山内 鉄夫

 今般、大阪府が、本年6月18日に完全施行された改正貸金業法において導入された総量規制と上限金利規制を一部緩和し、大阪府に本店を置く貸金業者を対象に、少額貸付や短期貸付について、上限金利規制・総量規制を緩和するという内容の「小規模金融特区」構想を発表した。
 そもそも、年収の3分の1を超える借り入れ、あるいは年29.2%の金利負担は、借手の生活や事業を破綻させるものであり、それが故に貸金業法の改正が行われたのである。本件特区構想は、借手の生活や事業の破綻を先延ばしにするだけであって、多重債務者の顕在化を遅らせて、迅速・適切な法的債務整理の機会を奪うことにもなりかねないものであり、必要性も合理性も見出しがたい。さらに、全国の貸金業者が大阪府に本店を置くことにより、上限金利規制と総量規制を潜脱することが可能となる。その結果、改正貸金業法等が骨抜きにされることは明白であり、さらなる多重債務の悲劇を生み出すことになる。
 大阪府においては、2006年(平成18年)に府下34自治体の地方議会で金利引き下げを求める意見書を採択し、2009年(平成21年)には府内全ての地方議会において、高金利引き下げ及び総量規制を内容とする貸金業法の早期完全施行を求める意見書を採択している。これは、高金利の引き下げや総量規制の導入による多重債務の根絶こそが大阪府民の意思であることを示している。
 大阪府は、中小企業や個人向けの短期小口融資に対応すべきであり、高金利や過剰貸付を推奨するような安易な方法を検討するのではなく、相談窓口やセーフティネットを拡充することにより多重債務者の救済政策を充実させるべきである。当会も、従前にも増して相談体制の充実及びセーフティネット構築のために尽力する所存である。
 本件特区構想は、多重債務被害の根絶を目的とした貸金業法の改正趣旨に反し、これまで一定の成果をあげてきた多重債務対策をないがしろにするものであり、到底受け入れることはできない。当会は、大阪府に対し、本件特区構想の即時撤回を求めるものである。

当会会員が弁護士法違反の疑いで告発されたとの報道について(会長声明)

 本日、当会会員及びその事務員等が弁護士法違反容疑で大阪弁護士会から告発されたと報道されました。
 司法書士は、市民の権利保護に寄与すべく高度な職業倫理に基づき公正かつ誠実に職務遂行することが求められています。当会はこれまで、倫理研修の義務化と強化や、広告・債務整理に関する規定の整備等を行い、会員に対する指導を重点的に行ってきたにもかかわらず、この様な事態が生じたことは大変遺憾に思います。
 この事実を重く受け止め、会員への指導・研修を一層強化し、司法書士に対する市民の皆様の信頼を損なうことのないよう引き続き努力する所存です。

平成22年(2010年)4月8日
大阪司法書士会会長 山内鉄夫

「司法書士による任意整理の統一基準」の遵守を求める要請書

大司発第919号
平成22年3月4日

日本貸金業協会  御 中
日本消費者金融協会  御 中
全国銀行協会  御 中
日本事業者金融協会  御中
日本クレジット協会  御中

「司法書士による任意整理の統一基準」の遵守を求める要請書

大阪司法書士会
会長 山内 鉄夫

 司法書士は、従前より多重債務者の救済のために債務整理に取り組んできた。とりわけ、平成15年に司法書士法が改正され、簡易裁判所代理権の取得後には、任意整理にも精力的に取り組んでいる。
 別紙「司法書士による任意整理の統一基準」は、多重債務者の経済的再生を図る為に必要最低限の内容を盛り込み、平成16年の日本司法書士会連合会定時総会において採択されたものであり、その後、統一基準に基づく任意整理は、自己破産者、多重債務者の大幅な減少に大きな役割を果たしてきた。
 貸金業者の、利息制限法を超過する(超過しないまでも制限法上限)高金利の貸付、債務者の返済能力を超えた過剰貸付が多重債務者を生み出す一因となってきたことや、これまで、ほとんどの貸金業者がこの統一基準に基づく和解に応じてきたものであることから、統一基準は、相当の合理性をもった法慣習であって、貸金業者がその責任において遵守すべき一定の法規範性を有しているというべきものである。
 しかし、近時、一部の貸金業者が、経過利息・将来利息・遅延損害金(以下、「利息等」という。)の回収に固執し、債務者からの統一基準に基づく和解案に応じないために任意整理による和解の成立が困難な事案が散見される。一部の業者に対して利息等を付して返済することは、各債権者間の公平・平等な手続きを阻害するのみならず、多重債務者は、もともと経済的に困窮し多重債務に陥ることから、債務者の弁済計画の立案そのものを困難にし、多くの場合、利息等を付すことにより債務者の返済能力を超えることになり、破産などの法的手続きに移行せざる得ない事態が発生することは想像に難くない。
 司法書士の取り組む債務整理は、債務者の経済的再生を図るという多重債務者本人の利益だけではなく、経済的困窮から起こる犯罪や、家庭崩壊、貧困、経済的要因による自死の防止に資するものであり、いわば公益的立場で行われているものである。
 政府も「多重債務問題改善プログラム」を策定して、国をあげて多重債務対策を実施していること、特定調停手続の場合、将来利息・遅延損害金を付さない運用がなされていること、個人再生手続を選択した場合には残元金を減額することが可能であること、先にも述べたとおり、多重債務問題の発生につき、高利・過剰貸付により多重債務を生み出してきた貸金業者にも一定の責任が認められること等に鑑みると、貸金業者は公平で合理的な統一基準による任意整理に協力する社会的責任がある。
 そこで、当会は、貴会に対し、会員各貸金業者に対して多重債務問題解決の重要性を理解し、債務者の「司法書士による任意整理の統一基準」に基づく和解案に応じ、債務者の生活再建に協力されるよう指導・徹底されたく要請をする次第である。

以 上

賃貸住宅入居者の信用情報に関するデータベースの運営中止を求める要請書

大司発第870号
平成22年2月16日

一般社団法人全国賃貸保証業協会 御中

賃貸住宅入居者の信用情報に関するデータベースの運営中止を求める要請書

大阪司法書士会
会長 山内 鉄夫

 当会は、貴協会に対し、貴協会が平成22年2月1日から運用を開始した賃貸住宅入居者の信用情報に関するデータベース(以下「このDB」という。)に関して、下記のとおり要請します。

 当会は、平成21年10月5日付、国土交通省民間賃貸住宅部会「中間とりまとめ」に対する意見書において、このDBの導入に反対の立場を表明しているところ、貴協会が「賃貸住宅における賃借人の居住の安定確保を図るための家賃債務保証業の業務の適正化および家賃等の取立て行為の規制に関する法律案」(仮称)の成立前に、このDBを導入し、稼働を開始したことは誠に遺憾です。
 このDBによって、低所得者や不安定所得者が賃貸住宅市場から排除されることの懸念が払拭されない限り、このDBは、社会不安を招くものとして、即時、その運営を中止されるよう、当会は改めて貴協会に要請します。